村上春樹「アフターダーク」

多少ネタバレあり。
井戸が登場しなかったことに少し驚いた。エレベーターはいつも通り出てきた。他にも「あちら側」と「こちら側」、暴力とセックスは健在。ねじまき鳥クロニクルでも出てきた「顔のない男」の登場には驚いた。もっとも、「ねじまき鳥」の顔のない男と本作の顔のない男は別人であるけれど。ねじまき鳥での顔のない男は間違いなく主人公の岡田亨を比喩している存在だったと思う。今回の顔のない男は一体何を意味しているのだろう。何度か読めば分かるようになるかなあ。/闇からの第三者的視点で「私たち」は見つめる。見つめられる対象が今回の物語。「私たち」はまるで「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」で書かれた「やみくろ」のようだ。相変わらずふんだんに鏤められたメタファー。僕の能力では解釈しきれない。そういうところが好きなのだけれど。ひとによって解釈が異なるから、そういうものを眺めるのがすごく好きだ。人間の多角的な視野の広さを垣間見ることが出来ると、豊かさというものを感じる。